「自分はどのくらい先延ばししやすい?」
先延ばしについて調べていると、
先延ばし尺度
という言葉を見かけることがあります。
心理学の研究では、
「この人は先延ばしする人です」
と感覚だけで判断するわけにはいきません。
そこで使われるのが、
先延ばし傾向を一定の質問によって測定する尺度
です。
代表的なものには、
- General Procrastination Scale(GPS)
- Pure Procrastination Scale(PPS)
- Adult Inventory of Procrastination(AIP)
- Procrastination Assessment Scale-Students(PASS)
などがあります。
ただし、それぞれ測っている対象や作られた目的が違います。
また、
尺度の点数だけで「病的な先延ばし」「発達障害」などを診断できるわけではありません。
この記事では、先延ばし研究で使われてきた代表的な尺度と、それぞれの違いを紹介します。
先延ばし尺度とは?
先延ばし尺度とは、
その人にどの程度の先延ばし傾向があるかを質問への回答から測定する方法
です。
例えば、
期限まで余裕があると後回しにしやすい。
やろうと思ったことをなかなか始めない。
必要なことを最後まで延ばしてしまう。
といった先延ばしに関係する質問へ回答します。
回答方法には、
「まったく当てはまらない」
から、
「非常によく当てはまる」
まで、段階的に選ぶ形式などがあります。
複数の質問への回答を数値化することで、研究では参加者同士の先延ばし傾向を比較できるようになります。
なぜ先延ばしを尺度で測るの?
例えば、
先延ばしとストレスに関係があるか
を研究するとします。
研究参加者へ、
「あなたは先延ばしする人ですか?」
と聞くだけでは、
少し先延ばしする人。
頻繁に先延ばしする人。
生活に支障が出るほど先延ばしする人。
が同じ「はい」になってしまう可能性があります。
そこで、
先延ばしに関する複数の質問に回答してもらい、
先延ばし傾向を数値として扱えるようにする
わけです。
その数値と、
ストレス。
睡眠。
不安。
自己効力感。
学業成績。
など別の指標との関係を分析します。
先延ばしについてどのような研究が行われているかは、先延ばしの研究・論文まとめでも紹介しています。
代表的な先延ばし尺度
先延ばし研究では、一つの尺度だけが使われているわけではありません。
代表的な尺度を整理すると、次のようになります。
| 尺度 | 主な用途 |
|---|---|
| General Procrastination Scale(GPS) | 日常的・一般的な先延ばし傾向 |
| Adult Inventory of Procrastination(AIP) | 成人の先延ばし傾向 |
| Procrastination Assessment Scale-Students(PASS) | 学生の学業上の先延ばし |
| Pure Procrastination Scale(PPS) | 複数の既存尺度から先延ばしの中核的特徴を測定 |
同じ「先延ばし尺度」でも、
何を対象にしているのか
が違います。
それぞれ見てみましょう。
General Procrastination Scale(GPS)
先延ばし研究でよく知られている尺度の一つが、
General Procrastination Scale(GPS)
です。
Clarry Layが1986年に発表した研究で提案された尺度で、
日常生活における一般的な先延ばし傾向
を測定するために作られました。
特定の仕事や勉強だけではなく、
普段から物事を後回しにする傾向
を捉えることを目的としています。
そのため、
特性的な先延ばし
を研究するときに使われてきました。
Adult Inventory of Procrastination(AIP)
もう一つ代表的なのが、
Adult Inventory of Procrastination(AIP)
です。
McCownらによって開発された、成人の先延ばしを測る尺度です。
こちらも特定の一つの課題ではなく、
成人の日常生活における先延ばし傾向
を扱います。
先延ばし研究ではGPSとともに知られている尺度ですが、
GPSとAIPがまったく同じものを測っているわけではありません。
後ほど紹介するPure Procrastination Scaleが作られる背景には、
既存の先延ばし尺度がそれぞれ少し異なる側面を測定している
という問題もありました。
PASSは学生の先延ばしを測る尺度
大学生などの学業上の先延ばし研究で知られているのが、
Procrastination Assessment Scale-Students(PASS)
です。
SolomonとRothblumによる1984年の研究で使用された尺度です。
PASSでは、
レポートを書く。
試験勉強をする。
毎週の課題をこなす。
学業上の事務手続きをする。
授業へ出席する。
学校活動全般。
など、
大学生活における複数の場面での先延ばし
を扱います。
さらに、
どの程度先延ばしするか。
先延ばしがどの程度問題になっているか。
先延ばしを減らしたいと思っているか。
などを尋ねます。
つまり、
単純に、
「先延ばしする・しない」
だけを見る尺度ではありません。
PASSでは先延ばしの理由も調べられた
SolomonとRothblumの研究では、
先延ばしの頻度だけでなく、
なぜ先延ばしするのか
についても調べられました。
研究では、先延ばしの理由として、
失敗への恐怖。
課題への嫌悪。
などが重要な要因として示されています。
先延ばし研究が、
単なる時間管理の問題だけではない
と考えられてきたことが分かります。
例えば、
レポートを書く能力はある。
でも、
「うまく書けなかったらどうしよう」
と不安になる。
↓
レポートを開かない。
↓
別のことをする。
という先延ばしもあります。
先延ばしと不安については、不安や恐怖で先延ばししてしまう?でも紹介しています。
Pure Procrastination Scale(PPS)
比較的新しい代表的な尺度として知られているのが、
Pure Procrastination Scale(PPS)
です。
Steelが2010年に発表した研究で提案されました。
PPSが作られた背景には、
先延ばしを測る既存尺度が複数あり、それぞれ異なる構成概念を含んでいる
という問題があります。
Steelは、
General Procrastination Scale。
Adult Inventory of Procrastination。
Decisional Procrastination Questionnaire。
という既存尺度の項目を分析しました。
その結果をもとに、
先延ばしの中核的な特徴をより純粋に測定する
ことを目指して作られたのがPure Procrastination Scaleです。
PPSは12項目で構成される
Pure Procrastination Scaleは、
12項目
から構成されています。
元になっているのは、
General Procrastination Scale。
Adult Inventory of Procrastination。
Decisional Procrastination Questionnaire。
の項目です。
大きく見ると、
決断を遅らせる。
課題への着手や実行を遅らせる。
期限どおりに行動できない。
といった先延ばしに関係する内容が含まれています。
ただし、尺度には著作権や利用条件が関係する場合があります。
この記事では尺度の内容を理解するための概要にとどめ、質問項目全文は掲載しません。
なぜ「Pure=純粋」なの?
Pure Procrastination Scaleという名前を見ると、
「純粋な先延ばしって何?」
と思うかもしれません。
これは、
既存尺度に含まれる先延ばし以外の要素をできるだけ分離し、共通する中核部分を測ろうとした
という意味です。
Steelの研究では、既存尺度を分析した結果、
先延ばしに関する項目の多くが共通する一つの因子へまとまることが示されました。
そこから、
複数の尺度に共通する先延ばし傾向
を測るためにPPSが構成されています。
尺度によって結果が変わる可能性がある
先延ばし研究を読むときに注意したいのが、
どの尺度を使っているか
です。
例えば、
日常生活全般の先延ばし。
学業上の先延ばし。
意思決定の先延ばし。
では、対象が違います。
大学生が、
勉強は毎回先延ばしする。
でも、
家事や仕事はすぐやる。
ということもあります。
逆もあります。
だから研究で、
「先延ばしと○○には関連があった」
と書かれていても、
その研究では何を先延ばしとして測ったのか
を見ることが大切です。
日本語の先延ばし尺度も研究されている
海外で作られた尺度を日本で使う場合、
単純に英語を日本語へ翻訳すればよいとは限りません。
質問の意味。
言葉のニュアンス。
文化的な違い。
などによって回答が変わる可能性があるためです。
そのため日本でも、
先延ばしを測定するための日本語尺度について研究が行われています。
例えば、General Procrastination Scaleについては、日本語版の作成や信頼性・妥当性を検討した研究があります。
また、日本の大学生を対象として、
課題先延ばし行動
を測定する尺度の作成・検討も行われています。
研究で尺度を使用するときは、
日本語版として信頼性や妥当性が検討されているか
も確認する必要があります。
信頼性とは?
心理尺度について調べると、
信頼性
という言葉が出てきます。
簡単にいえば、
測定結果にどの程度一貫性があるか
を見るものです。
例えば、
同じような先延ばし傾向を測る質問なのに、
回答結果がバラバラなら、
尺度として扱いにくくなります。
そのため心理尺度を作る研究では、
複数の項目が一定のまとまりを持っているか
などが統計的に検討されます。
妥当性とは?
もう一つ重要なのが、
妥当性
です。
簡単にいえば、
本当に測りたいものを測れているのか
という問題です。
例えば、
先延ばし尺度
と名付けられていても、
実際には、
怠惰。
不安。
衝動性。
だけを測っているのであれば、
先延ばし尺度として適切なのか疑問が生じます。
そのため、
ほかの先延ばし尺度。
性格特性。
自己効力感。
衝動性。
ストレス。
などとの関係を調べながら、
先延ばしという構成概念を適切に測れているか
が検討されます。
点数が高ければ「病的」なの?
ここは特に注意が必要です。
先延ばし尺度で高い点数が出ても、
それだけで病的な先延ばしと診断されるわけではありません。
心理尺度は、
研究参加者の傾向を測る。
グループ間を比較する。
ほかの心理的特徴との関連を調べる。
といった目的でも使われます。
例えば、
PPSの点数が高かった。
↓
だから病的な先延ばしである。
とは判断できません。
深刻な先延ばしについては、
頻度だけでなく、
仕事や学業への影響。
本人の苦痛。
生活への支障。
なども重要になります。
詳しくは、病的な先延ばしとは?でも紹介しています。
先延ばし尺度で発達障害も判断できない
同様に、
先延ばし尺度の点数から、
ADHDなどの発達障害を判断することもできません。
ADHDと先延ばしには関連が研究されていますが、
先延ばしはADHDのある人だけに起こる行動ではありません。
先延ばし尺度は、
先延ばし傾向を測るもの
です。
発達障害の診断をするものではありません。
先延ばしと発達特性については、先延ばしと発達特性に関係はある?も参考にしてください。
ネットの「先延ばし診断」と研究用尺度は同じとは限らない
ネットでは、
「あなたの先延ばし度は80%」
「先延ばしタイプ診断」
といったコンテンツを見ることがあります。
楽しむ目的なら問題ありませんが、
研究で信頼性や妥当性が検討された心理尺度と同じとは限りません。
研究用の尺度では、
どのように作られたのか。
どの集団で調べられたのか。
信頼性はあるのか。
妥当性はあるのか。
などが検討されます。
一方、Web上の簡易診断には、
そのような検証が行われているものもあれば、単なるコンテンツとして作られたものもあります。
結果を見るときは、
何を根拠に作られた診断なのか
を確認しましょう。
自分の先延ばしを知るなら点数よりパターンを見る方法もある
研究では尺度による測定が重要です。
しかし、
自分の先延ばしを改善したい
という目的なら、必ずしも尺度の点数を出す必要はありません。
例えば、
何を先延ばしした?
資料作成。
いつ?
午後3時。
そのとき何を感じた?
難しそうだった。
代わりに何をした?
メール返信。
いつ始めた?
締め切り直前。
と記録します。
これを数日続けると、
難しい仕事を先延ばしする。
午後になると先延ばしする。
評価される仕事を先延ばしする。
時間がかかりそうな仕事を先延ばしする。
といったパターンが見えることがあります。
研究用の尺度とは別に、
自分の行動を変えるための観察
として使えます。
Pomolikaで先延ばしを時間として記録する
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
心理尺度のように、
あなたの先延ばし度は○点
と診断するサービスではありません。
代わりに、
先延ばししている作業を一つ選ぶ。
↓
最初の行動まで小さくする。
↓
10分だけタイマーを設定する。
↓
実際に着手する。
という形で、
行動を始めるきっかけ
として使えます。
例えば、
「資料作成を先延ばししている」
なら、
資料ファイルを開いて見出しを3つ書く
まで小さくします。
そして10分だけ始めます。
尺度は、
自分の先延ばし傾向を知るための道具。
タイマーは、
今の先延ばしを終えて行動へ移るための道具。
目的が違います。
まとめ
先延ばし尺度とは、
先延ばし傾向を一定の質問によって測定するための心理尺度
です。
代表的なものには、
General Procrastination Scale(GPS)。
Adult Inventory of Procrastination(AIP)。
Procrastination Assessment Scale-Students(PASS)。
Pure Procrastination Scale(PPS)。
などがあります。
ただし、それぞれ、
一般的な先延ばし。
成人の先延ばし。
学業上の先延ばし。
複数尺度に共通する先延ばし。
など、測ろうとしているものが少し違います。
そのため、先延ばし研究を読むときは、
「先延ばしとの関連があった」という結果だけでなく、何の尺度を使って測定したのか
まで確認することが大切です。
また、
尺度の点数が高い。
↓
病的な先延ばし。
ADHD。
という判断はできません。
心理尺度は、目的や信頼性・妥当性を理解したうえで使う必要があります。
そして、
自分の先延ばしを改善したい
という目的なら、
点数を出すだけではなく、
自分は何を、いつ、どんな状況で先延ばしするのか
を観察してみましょう。
自分の先延ばしパターンが分かれば、
次は、
そのパターンが起きる前に何を変えるか
を考えられるようになります。