「先延ばしについて心理学ではどんな研究がある?」
「先延ばしの原因や改善方法について論文を読みたい」。
先延ばしは、単に、
やる気がない
怠けている
という問題として研究されているわけではありません。
心理学を中心に、
- なぜ先延ばしするのか
- どんな人・状況で起こりやすいのか
- ストレスと関係するのか
- 健康や生活へどんな影響があるのか
- 心理的な介入によって改善できるのか
- 朝型・夜型と関係するのか
- 脳ではどのような仕組みが関係するのか
など、さまざまな角度から研究されています。
一方で、一つの研究だけを見て、
「先延ばしの原因が判明した」
と考えるのは注意が必要です。
研究によって対象者や調査方法が異なり、関連が見つかっただけで因果関係までは分からない場合もあります。
この記事では、先延ばしについて代表的な研究や論文を紹介しながら、
現在の研究から何が分かっていて、何までは言えないのか
を整理します。
先延ばしはどのように研究されている?
先延ばし研究では、さまざまな方法が使われています。
例えば、
横断研究 → ある時点で先延ばしと別の要素との関連を調べる
縦断研究 → 同じ参加者を一定期間追跡する
実験研究 → 条件を変えて行動の違いを調べる
ランダム化比較試験 → 介入を受けるグループなどに分けて効果を比較する
メタ分析 → 複数の研究結果を統計的に統合する
システマティックレビュー → 一定の基準で関連研究を集め、全体を評価する
といった方法です。
そのため、
「論文に書いてあるから事実」
と考えるのではなく、
どんな方法で調べた研究なのか
まで見ることが大切です。
先延ばし研究で有名なSteelのメタ分析
先延ばし研究を調べると頻繁に登場するのが、心理学者Piers Steelによる2007年の論文です。
論文タイトルは、
The Nature of Procrastination: A Meta-Analytic and Theoretical Review of Quintessential Self-Regulatory Failure
です。
この研究では、それまでの研究から691の相関関係を使って、先延ばしの原因や関連要因が検討されました。
結果として、先延ばしと比較的強く一貫した関係が見られたものとして、
- 作業への嫌悪感
- 結果が得られるまでの時間
- 自己効力感
- 衝動性
- 誠実性
- 自己コントロール
- 気の散りやすさ
- 組織化
- 達成動機
などが挙げられています。
一方、
神経症傾向
反抗性
刺激を求める傾向
との関係は弱いものでした。
つまり、
特定の性格だけで先延ばしを説明するのは難しい
ことが分かります。
先延ばしの原因について研究から何が分かっている?
Steelのメタ分析以降も、先延ばしの原因について多くの研究が行われています。
研究全体を見ると、
一つの原因だけで先延ばしが起きる
という説明にはなっていません。
例えば、
作業が嫌。
結果が得られるのが遠い。
自分にはできないと思う。
目の前の誘惑へ反応する。
嫌な感情から逃れたい。
など、複数の要因が関係する可能性があります。
2018年の研究では、600人以上を対象に、衝動性、動機づけ、感情調整と先延ばしとの関係が調べられました。
そのモデルでは特に、
価値を感じられないこと
遅延割引
粘り強さの不足
などが先延ばしとの関係で重要な要素として示されました。
ただし、こうした研究から、
この要素があれば必ず先延ばしする
とは言えません。
先延ばしは複数の要因が組み合わさる行動として考えるほうがよいでしょう。
先延ばしの原因全体については、なぜ先延ばししてしまう?心理学から考える原因とメカニズムでも詳しく紹介しています。
感情調整としての先延ばし
先延ばし研究で重要なテーマの一つが、
感情調整
です。
例えば、
難しい資料を作ろうとする。
↓
不安になる。
↓
スマホを見る。
↓
一時的に不安から離れられる。
という行動です。
この場合、
仕事をしないこと自体が目的
なのではなく、
仕事によって生じる嫌な感情から離れること
が先延ばしにつながっている可能性があります。
先延ばし研究者のFuschia SiroisやTimothy Pychylらは、こうした感情調整の観点からも先延ばしを研究しています。
この考え方では、先延ばしは単純な時間管理の失敗ではなく、
短期的な気分を優先する自己調整の問題
として捉えられます。
先延ばしとストレスの研究
「先延ばしするとストレスが増えるのか?」
というテーマも研究されています。
Siroisによる2023年の概念的レビューでは、過去約20年間の研究で、
先延ばしとストレスの間に一貫した関連が報告されている
と整理されています。
先延ばしによって、
締め切りが近づく。
時間がなくなる。
罪悪感を感じる。
やるべきことが残り続ける。
といった状況になれば、ストレスにつながることも考えられます。
一方で、
先延ばし → ストレス
という一方向だけで単純に説明できるとは限りません。
ストレスがあることで、さらに嫌な作業を避けたくなる可能性も考えられています。
先延ばし・ストレス・健康を調べた縦断研究
Sirois、Stride、Pychylによる2023年の研究では、379人を対象に1か月間隔で3回調査する縦断研究が行われました。
その結果、
慢性的な先延ばし傾向が高いほどストレスが高く、健康行動が少ない
という関連が各時点で確認されました。
さらに分析では、先延ばしと健康問題との関係について、
ストレスを介した間接的な関連
が示されています。
研究では、誠実性や神経症傾向などの影響も考慮されています。
ただし、この研究だけから、
先延ばしが病気を直接引き起こす
と断定することはできません。
ストレスについては異なる結果の研究もある
研究を見るときに重要なのは、
自分が期待する結論の研究だけを選ばないこと
です。
2024年には、392人の大学生を1年間追跡した3時点の縦断研究も発表されています。
この研究では、
先延ばしから、その後の抑うつ・不安症状への関係
が示されました。
一方、
知覚されたストレスがその関係を媒介する
という仮説は支持されませんでした。
つまり、
先延ばし → ストレス → 心理的問題
という仕組みが、すべての研究で確認されているわけではありません。
研究結果が異なる場合には、
対象者。
測定方法。
追跡期間。
分析方法。
などの違いも考える必要があります。
先延ばしと健康についての研究
先延ばしと健康との関連を調べた研究もあります。
2023年にJAMA Network Openで発表された研究では、スウェーデンの大学生3,525人を対象に追跡調査が行われました。
先延ばし傾向が高いことは、その後の、
- 抑うつ症状
- 不安症状
- ストレス症状
- 上肢の生活に支障をきたす痛み
- 睡眠の質の低さ
- 身体活動不足
- 孤独
- 経済的困難
などと関連していました。
ただし、この研究も、
先延ばしをすると必ずこれらの問題が起きる
ことを示したものではありません。
著者らも、先延ばしがさまざまな健康アウトカムと関連する可能性を示す研究として報告しています。
先延ばしは改善できる?介入研究
原因や影響だけではなく、
どうすれば先延ばしを改善できるのか
という研究もあります。
Rozentalらは2018年に、先延ばしを対象とした心理的介入についてシステマティックレビューとメタ分析を発表しました。
この研究では、
ランダム化比較試験12研究、合計718人
が分析対象となりました。
心理的介入全体では、
小さな改善効果
が確認されました。
一方、認知行動療法(CBT)を使った研究だけを見ると中程度の効果が確認されました。
ただし、CBTについて分析できた研究数は少なく、著者らもさらなる研究が必要だとしています。
つまり、
心理的介入で改善できる可能性は示されているものの、何をすれば誰でも確実に治るとまでは言えない
という段階です。
認知行動療法を使った研究
Rozentalらは、先延ばしを対象にした認知行動療法のランダム化比較試験も行っています。
2018年の研究では、
インターネットを使った自己実施型CBT
と、
グループ形式のCBT
が比較されました。
先延ばしを、
心理的な介入の対象として直接扱う
研究が行われていることが分かります。
さらに、インターネットを使ったCBTについては1年後まで追跡した研究も発表されています。
ただし、
CBTが先延ばし対策の唯一の正解
という意味ではありません。
先ほどのメタ分析でも、研究数の少なさなどが課題として挙げられています。
朝型・夜型と先延ばしには関係がある?
「朝型と夜型で先延ばししやすさは違う?」
という研究もあります。
このテーマで使われるのが、
クロノタイプ
という考え方です。
簡単にいえば、
活動しやすい時間帯などに関する朝型・夜型の傾向
です。
2019年に315人の若年成人を対象に行われた研究では、
自己効力感の低さ
自己コントロールの低さ
夜型傾向
が先延ばしを予測する要素として報告されました。
「夜型だから先延ばしする」とは限らない
最近の研究でも、夜型傾向と先延ばしの関連は報告されています。
2025年の大学生1,207人を対象とした横断研究では、夜型の学生ほど学業上の先延ばしが多いという関連が確認されました。
別の2025年の研究でも、クロノタイプと学業上の先延ばしについて、将来の自分とのつながりや自己コントロールを含めた関係が研究されています。
ただし、これらは主に、
関連を調べた研究
です。
そのため、
夜型だから先延ばしする
朝型になれば先延ばしが治る
と因果関係まで断定することはできません。
睡眠と先延ばしの研究
朝型・夜型の研究では、
睡眠
も重要なテーマです。
2022年の研究では、101人のフルタイム従業員を対象に、睡眠の質やクロノタイプと仕事中の先延ばしとの関係が調べられました。
結果として、
よく眠れた日の翌日は先延ばしが少ない
という関係が確認され、遅いクロノタイプの人ほど先延ばしが多いことも報告されています。
また、就寝そのものを遅らせる、
就寝先延ばし
についても研究があります。
これは一般的な仕事や勉強の先延ばしとは区別して考える必要があります。
脳科学から見た先延ばし研究
先延ばしは脳科学からも研究されています。
2019年のレビューでは、
- 作業への嫌悪感
- 将来のインセンティブ
- インセンティブまでの時間
- 自己コントロール
- 衝動性
などを整理したうえで、先延ばしに関係する認知メカニズムや神経基盤について検討されています。
ただし、
脳の特定部分が先延ばしを起こす
と単純に説明できる段階ではありません。
先延ばしの脳科学については、先延ばしするとき脳では何が起きる?脳科学から仕組みを解説で詳しく紹介しています。
行動経済学から見た先延ばし研究
先延ばしは、
将来と現在のどちらを重視するか
という意思決定の問題としても研究されています。
例えば、
将来の試験に合格する。
将来仕事が楽になる。
というメリットがあっても、
今は勉強したくない
今はスマホを見たい
という選択をすることがあります。
こうした時間をまたぐ意思決定については、
現在バイアス
時間割引
などの考え方から研究されています。
行動経済学から先延ばしを考えたい場合は、なぜ先延ばしする?行動経済学の「現在バイアス」から考えるも参考にしてください。
先延ばし研究でまだ分からないこと
これだけ研究があっても、
先延ばしのすべてが解明されたわけではありません。
特に注意したいのが、
相関関係と因果関係の違い
です。
例えば、
「夜型の人ほど先延ばしが多かった」
という研究があったとしても、
夜型だから先延ばしになった
とは限りません。
別の要素が両方に関係している可能性もあります。
同様に、
先延ばしする人ほどストレスが高い。
先延ばしする人ほど睡眠の質が低い。
という関連があっても、
先延ばしだけが原因
とは限りません。
研究を見るときは、
「関連がある」
と、
「原因である」
を分けて読むことが大切です。
一つの論文だけで結論を出さない
先延ばしについて検索すると、
研究で判明
科学的に証明
という表現を見かけることがあります。
しかし、一つの研究結果だけでは結論を出しにくいテーマもあります。
例えばストレスについても、
先延ばしから健康問題への関係をストレスが媒介することを支持した縦断研究がある一方、
別の縦断研究では、その媒介関係が確認されていません。
だからこそ、
複数の研究を見る
ことが重要です。
研究全体を確認したい場合は、
個別研究より、
メタ分析
システマティックレビュー
から読み始める方法があります。
そこから気になる個別研究へ進むと、研究全体の位置づけを把握しやすくなります。
先延ばしの論文を探す方法
自分でも先延ばしについて論文を探したい場合は、
PubMed
Google Scholar
などを利用できます。
日本語だけでなく、
procrastination
という英語でも検索してみましょう。
例えば、
procrastination meta-analysis
procrastination stress
procrastination intervention
procrastination CBT
procrastination chronotype
procrastination systematic review
などです。
「先延ばし」で検索するだけより、研究テーマを絞れます。
医学・心理学系の研究を探す場合は、PubMedで論文情報や抄録を確認できます。
まず読んでおきたい先延ばし研究
ここまで紹介した研究から、目的別に整理します。
| 知りたいこと | 研究 |
|---|---|
| 先延ばし研究全体 | Steel(2007)のメタ分析 |
| 原因・メカニズム | Steel(2007)、Zhangら(2019)のレビュー |
| ストレス | Sirois(2023)のレビュー |
| ストレス・健康 | Siroisら(2023)の縦断研究 |
| 健康との関連 | Johanssonら(2023)の大学生コホート研究 |
| 改善方法 | Rozentalら(2018)のメタ分析 |
| CBT | Rozentalら(2018)のランダム化比較試験 |
| 朝型・夜型 | Przepiórkaら(2019)など |
| 脳科学 | Zhangら(2019)のレビュー |
最初からすべて読む必要はありません。
先延ばしの全体像を知りたいなら、
Steel(2007)のメタ分析
から確認する方法があります。
改善方法を知りたいなら、
Rozentalら(2018)のシステマティックレビュー・メタ分析
から見るとよいでしょう。
研究結果を実際の先延ばし対策へどう使う?
研究をたくさん読んでも、
今先延ばししている仕事
が自動的に終わるわけではありません。
研究から分かるのは、
先延ばしには、
作業への嫌悪感。
自己効力感。
衝動性。
感情調整。
自己コントロール。
時間的な要因。
など、複数の要素が関係する可能性があることです。
そこで、
自分はなぜこの作業を先延ばししている?
と考えてみましょう。
例えば、
作業が嫌 → 最初の作業を小さくする
難しすぎる → できるところから始める
スマホへ逃げる → 作業場所から離す
締め切りが遠い → 今日することまで小さくする
不安がある → 何が不安なのか具体的にする
という形です。
研究結果を、
自分を分類するため
ではなく、
試す対策を考えるため
に使ってみましょう。
Pomolikaで研究を読むだけで終わらせない
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
先延ばしについて調べていると、
論文を読む。
別の研究を探す。
原因について調べる。
対策を探す。
と、調査そのものを続けてしまうことがあります。
そこで、
今先延ばししていることを一つ選ぶ
↓
最初の作業を一つ決める
↓
Pomolikaを10分に設定する
↓
10分だけ始める
という方法があります。
研究で紹介されている方法をすべて試す必要はありません。
まず、
自分が試せそうなものを一つ
選びます。
研究を理解することと、
実際に行動すること。
両方を分けて考えてみましょう。
まとめ
先延ばしについては、心理学を中心に多くの研究が行われています。
研究では、
- 作業への嫌悪感
- 自己効力感
- 衝動性
- 自己コントロール
- 感情調整
- ストレス
- 健康
- 睡眠
- クロノタイプ
- 脳の働き
- 時間をまたぐ意思決定
- 心理的介入
など、さまざまなテーマが調べられています。
Steelによるメタ分析では、先延ばしと複数の心理・行動的要因との関連が整理されています。
心理的介入についてのメタ分析では、全体として小さな改善効果が報告され、CBTについても効果が示されていますが、研究数などには限界があります。
ストレスや健康との関係についても研究されていますが、研究によって結果が異なる部分があります。
また、夜型傾向と先延ばしの関連を示す研究もありますが、
夜型だから先延ばしする
と因果関係まで断定することはできません。
先延ばし研究を読むときは、
一つの論文だけで結論を出さない
ことが大切です。
メタ分析やレビューから全体像を確認し、必要に応じて個別研究を読んでみましょう。
そして研究から自分に当てはまりそうな要素を見つけたら、
今先延ばししている一つの作業に、何を試せるか
まで考えてみてください。