「明日から勉強しようと思っていたのに、今日になるとやりたくない」。
「早く始めたほうが楽だと分かっているのに、締め切り直前まで先延ばししてしまう」。
こうした行動は、行動経済学の視点からも研究されています。
そのとき重要になる考え方の一つが、
現在バイアス
です。
簡単にいえば、
将来の利益や負担より、今この瞬間の利益や負担を強く意識しやすい
という傾向です。
例えば、資格の勉強をするとします。
今日勉強すれば、数か月後の試験では有利になります。
しかし、勉強する面倒さは今すぐ発生します。
一方、動画を見る楽しさも今すぐ得られます。
すると、
勉強は明日からでいいか
と考えてしまうことがあります。
この記事では、先延ばしを行動経済学から考え、現在バイアスや時間割引との関係、先延ばしを減らすためにできることを紹介します。
先延ばしを行動経済学で考える
行動経済学では、
人はいつでも完全に合理的な判断をするわけではない
という前提から、実際の人間の意思決定を研究します。
先延ばしも、その対象の一つです。
例えば、
今日1時間勉強する
という選択肢と、
今日は動画を見て、明日1時間勉強する
という選択肢があるとします。
将来のことだけを考えれば、
今日やっておいたほうが楽
と思うかもしれません。
しかし実際に今日になると、
今はやりたくない
という気持ちが強くなります。
そして明日になると、また同じことが起こります。
このような、
将来について立てた計画と、実際にその時点になったときの行動がずれること
を考えるうえで、現在バイアスは重要な概念です。
現在バイアスとは?
現在バイアスとは、将来同士の選択と比べて、
「今」が関係する選択で、目の前の利益や負担を特に強く評価する傾向
を指します。
例えば、
30日後に勉強する
か、
31日後に勉強する
かを考えれば、
「30日後にやろう」
と思うかもしれません。
ところが30日後になり、
今やる
か、
明日やる
かになると、
「今日は面倒だから明日にしよう」
と選択が変わることがあります。
これが先延ばしにつながる可能性があります。
実際、実作業を使った実験でも、努力をいつ行うかという選択に現在バイアスが見られ、コミットメントへの需要との関係が報告されています。
「明日ならできる」と思うのはなぜ?
先延ばしするとき、
今日は無理だけど、明日ならできる
と思うことがあります。
しかし、明日の自分が今日より暇になるとは限りません。
やる気が出る保証もありません。
それでも、
明日ならできそう
と感じます。
理由の一つとして考えられるのが、
明日の負担はまだ目の前にない
ことです。
例えば、日曜日に、
月曜日から毎日30分勉強しよう
と計画するとします。
日曜日の時点では、月曜日の30分も火曜日の30分も「将来」です。
ところが月曜日になると、
今から30分勉強する面倒さ
だけが現実になります。
そこで、
今日は疲れているから明日からにしよう
と計画を変更します。
そして火曜日になれば、今度は火曜日の負担が目の前に来ます。
これを繰り返すと、
いつまでも「明日から」
になってしまいます。
将来の利益より目の前の利益を選んでしまう
先延ばしでは、
利益がいつ得られるか
も重要です。
例えば、資格の勉強なら、
今日の行動による大きな利益は、
数か月後に試験へ合格すること
かもしれません。
一方、
スマホを見る。
ゲームをする。
漫画を読む。
動画を見る。
といった行動なら、楽しさをすぐ得られる場合があります。
つまり、
勉強 → 今は面倒 → 利益は将来
動画 → 今すぐ楽しい → 利益も今
という違いがあります。
このように、異なる時点の利益や負担をどう評価するかを扱うのが、
異時点間選択
です。
先延ばしを理解するときにも重要になります。
時間割引とは?
将来得られるものを、現在より低く評価することを、
時間割引
と呼びます。
例えば、
今日1万円もらえる
のと、
10年後に1万円もらえる
のでは、多くの場合、今日の1万円のほうが魅力的でしょう。
将来には不確実性もありますし、待つ時間もあります。
そのため、
将来の価値を現在より低く評価すること自体が、ただちに不合理というわけではありません。
重要なのは、
時間が経つことで自分の選択が変わることがある
という点です。
先延ばしの研究では、時間割引や現在バイアスなどを使って、
なぜ以前立てた計画を実行しないのか
が研究されています。
現在バイアスと双曲割引は同じ?
現在バイアスについて調べると、
双曲割引
という言葉も出てきます。
似た文脈で使われますが、完全に同じ言葉として扱うのは避けたほうがよいでしょう。
双曲割引は、
将来の価値が時間によってどのように割り引かれるか
を表現するモデルの一つです。
一方、現在バイアスは、
現在を含む選択で、現在を特別に重視する傾向
を表す考え方です。
研究では、双曲型の時間割引や準双曲型のモデルなど、複数の方法で時間をまたぐ意思決定が説明されています。
先延ばしを理解するときは、
将来より今を重視する傾向によって、計画と実際の行動がずれる場合がある
と押さえておけばよいでしょう。
先延ばしと現在バイアスには関係がある?
現在バイアスは、経済学における先延ばし研究で重要な説明の一つです。
学生を対象にしたフィールド実験では、現在バイアスと先延ばし、自己設定した締め切りなどの関係が研究されています。
また、仕事をいつ行うかを選ぶ実験でも、金銭の選択より実際の努力を伴う選択で現在バイアスが見られ、現在バイアスの強さがコミットメントへの需要を予測する結果が報告されています。
ただし、
先延ばしはすべて現在バイアスが原因
というわけではありません。
近年の実験では、課題を今終わらせるか将来へ回すかという選択について、単純な現在バイアスのモデルだけでは十分に説明できない結果も報告されています。
先延ばしには、
作業への不快感。
感情。
自己コントロール。
計画。
注意。
疲れ。
など、さまざまな要因が関係します。
現在バイアスは、
先延ばしを理解するための一つの考え方
として使いましょう。
締め切りが遠いと先延ばししやすい理由
例えば、
1か月後までにレポートを提出する
とします。
提出によるメリットも、提出しなかった場合の問題も、まだ遠く感じます。
一方、
今日レポートを書く面倒さは、
今すぐ発生します。
すると、
今日はやらなくてもいいか
と考えやすくなります。
ところが締め切り前日になると状況が変わります。
提出しなかった場合の問題が、
明日起きること
になるからです。
急に将来だったものが現在へ近づき、
「やらないとまずい」
と感じます。
学生の学習行動を調べた研究でも、締め切りが近づくにつれて活動が増える「deadline rush」が報告されており、そのパターンは双曲型の関数でよく説明されました。
スマホやゲームが強く見える理由
仕事とスマホを比べてみます。
仕事は、
始めるのが面倒。
考える必要がある。
成果が出るまで時間がかかる。
場合によっては失敗する。
一方、スマホなら、
開く。
動画を見る。
SNSを見る。
ゲームをする。
と、短い時間で楽しさを得られる可能性があります。
つまり、
将来の大きな利益
と、
現在の小さな利益
が競合している状態です。
だからといって、
スマホが現在バイアスを作っている
と単純に考える必要はありません。
対策として重要なのは、
目の前にどんな選択肢があるか
です。
スマホで先延ばししやすい場合は、スマホやゲームで先延ばししてしまうときの対策も参考にしてください。
現在バイアスは「意志が弱い」という話ではない
現在バイアスを知ると、
自分は目の前の誘惑に負ける意志の弱い人間だ
と思うかもしれません。
しかし、行動経済学から先延ばしを考えるメリットは、
意志の強さだけに頼らなくてよくなること
です。
例えば、
「明日は絶対頑張る」
と決意する代わりに、
明日になったときも先延ばししたくなるかもしれない
と考えておきます。
そして、その前提で環境を作ります。
未来の自分を信用しないというより、
未来の自分も今日の自分と同じように迷う
と考えるわけです。
「未来の自分に任せる」を防ぐ
先延ばしするとき、
明日の自分ならやってくれる
と考えることがあります。
しかし、明日の自分も、
仕事が面倒。
スマホを見たい。
疲れている。
という状態になるかもしれません。
そこで、
明日やる
だけではなく、
いつ・何をするか
まで決めておきます。
例えば、
明日勉強する
ではなく、
明日の20時に問題集を10分やる
とします。
さらに、
問題集を机に置いておく。
必要なページを開いておく。
スマホを別の場所へ置く。
など、
明日の自分が始めやすい状態
まで作っておく方法があります。
コミットメントで先延ばしを防ぐ
行動経済学では、
コミットメント・デバイス
という考え方があります。
将来の自分が計画を変えにくいように、
あらかじめ制約を作っておく方法
です。
例えば、
締め切りを自分で設定する。
誰かと約束する。
先に予定へ入れる。
作業する時間を確保する。
といった方法です。
学生を対象にしたフィールド実験では、拘束力のある自己設定締め切りを選ぶ行動が確認され、研究者はこれをコミットメントへの需要として分析しています。
ただし、
コミットメントを作れば必ず先延ばしを防げる
わけではありません。
別の実験では、コミットメントを用意しても実際の行動改善につながらないケースも報告されています。
自分に合う強さの仕組みを試すことが大切です。
自分で締め切りを作る
締め切りが1か月後なら、
1か月後までに完成
だけではなく、途中にも区切りを作ります。
例えば、
1週目:情報を集める
2週目:構成を作る
3週目:本文を書く
4週目:修正する
という形です。
さらに、
今週中に構成を作る
でも先延ばしするなら、
今日20分だけ見出しを考える
まで小さくします。
遠い締め切りを、
現在の行動
へ変えていきます。
将来の大きな報酬を「今の小さな行動」に変える
現在バイアスを知ったからといって、
将来の利益をもっと強く想像しよう
だけでは、実際に始められないことがあります。
そこで、
将来の目標を、
今できる行動
まで変換します。
例えば、
資格に合格する ↓ 今日10分問題を解く
ブログを完成させる ↓ 見出しを3つ作る
部屋をきれいにする ↓ 机の上を5分片付ける
という形です。
目標は将来にあっても、
行動は現在にしかできません。
今すぐできる大きさまで小さくしてみましょう。
目の前の行動にも小さなメリットを作る
将来の利益だけでは動きにくいなら、
今やることにも小さなメリットを作る
方法があります。
例えば、
10分だけやったら休憩する。
一つ終わったらチェックを付ける。
進んだ量を記録する。
作業後に好きなことをする。
といった方法です。
ただし、
報酬を設定すれば必ず先延ばしがなくなる
わけではありません。
重要なのは、
今始める選択肢を少し選びやすくすること
です。
行動経済学だけで先延ばしを説明しない
現在バイアスは、先延ばしを理解するうえで便利な考え方です。
しかし、
自分が先延ばしするのは現在バイアスのせいだ
と一つの原因に決める必要はありません。
例えば、
失敗するのが怖い。
完璧にやろうとしている。
作業が曖昧。
疲れている。
不安が強い。
といった理由でも、作業を避けることがあります。
先延ばしの原因全体については、なぜ先延ばししてしまう?心理学から考える原因とメカニズムで紹介しています。
また、報酬や自己コントロールを脳科学から知りたい場合は、先延ばしするとき脳では何が起きる?脳科学から仕組みを解説も参考にしてください。
Pomolikaで「明日」ではなく「今10分」にする
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
先延ばししていると、
明日ちゃんとやろう
と考えることがあります。
そこで、
明日30分やる
ではなく、
今10分できるか
と考えてみましょう。
例えば、
先延ばししている作業を一つ選ぶ
↓
最初にすることを一つ決める
↓
Pomolikaを10分に設定する
↓
10分だけ始める
という流れです。
資格試験なら、
合格するために頑張る
ではなく、
今10分だけ問題を解く
とします。
資料作成なら、
明日完成させる
ではなく、
今10分だけ構成を作る
とします。
タイマーを使えば現在バイアスがなくなる、という意味ではありません。
できるのは、
遠い将来の目標を、今実行できる時間へ変えること
です。
まとめ
先延ばしは、行動経済学からも研究されています。
そのとき重要になる考え方の一つが、
現在バイアス
です。
将来なら、
「早めにやったほうがいい」
と思っている。
しかし、その日になると、
「今日はやりたくない」
と感じる。
その結果、
明日の自分へ仕事を渡す
ことがあります。
先延ばしへの対策を考えるなら、
- 明日の自分も先延ばしする可能性を考える
- 「明日やる」ではなく時間と作業を決める
- 遠い締め切りを小さな締め切りへ分ける
- 作業を今できる大きさまで小さくする
- 必要ならコミットメントを作る
- 今始めることにも小さなメリットを作る
といった方法があります。
ただし、現在バイアスだけですべての先延ばしを説明できるわけではありません。
実際、2024年の課題完了実験では、多くの参加者が余計な努力が必要でも即時完了を好み、単純な準双曲割引などでは関連する実験結果を十分説明できないと報告されています。
現在バイアスは、
「なぜ分かっているのに明日へ回すことがあるのか」
を考える一つの視点として使うのがよいでしょう。
「明日やろう」と思ったときは、
明日の自分に渡す前に、今10分だけできないか
と考えてみましょう。