「先延ばしはトラウマへの反応なの?」
「幼少期の経験が、大人になってからの先延ばしに影響することはある?」
先延ばしについて調べると、
先延ばしはトラウマ反応
幼少期のトラウマが先延ばしの原因
といった説明を見かけることがあります。
実際、幼少期のトラウマや逆境体験と、その後の先延ばしとの関係を調べた研究はあります。
ただし、
先延ばしをする=トラウマがある
先延ばしの原因=幼少期のトラウマ
と判断することはできません。
先延ばしには、作業への不快感、不安、自己コントロール、衝動性、自己効力感、時間的な要因など、さまざまな要素との関係が研究されています。
この記事では、先延ばしとトラウマ、幼少期の経験について、
研究ではどこまで分かっているのか
を中心に整理します。
先延ばしはトラウマへの反応なの?
最初に結論からいうと、
先延ばしそのものをトラウマへの反応だと一括りにすることはできません。
トラウマを経験していない人でも先延ばしは起こります。
また、トラウマを経験した人が必ず先延ばしするわけでもありません。
一方で、
幼少期のトラウマや逆境体験と、後の先延ばし傾向との関連
を報告した研究はあります。
そのため、
まったく関係がない
とするのも適切ではありません。
現在の研究からは、
幼少期の経験が、一部の人の先延ばしと関連する可能性が研究されている
と考えるのがよいでしょう。
幼少期のトラウマと先延ばしを調べた研究
2025年には、幼少期のトラウマと先延ばしの関係を、行動データと脳画像から調べた研究が発表されています。
研究では、
760人
と、
別の検証用データとして、
429人
が分析されました。
参加者について、
- 幼少期のトラウマ
- 特性的な不安
- 自己コントロール
- 先延ばし傾向
などが測定されています。
その結果、
幼少期のトラウマの程度が高いほど、先延ばし傾向も高い
という関連が確認されました。
さらに、
特性的な不安の高さ
と、
自己コントロールの低さ
が、その関係を媒介するという結果が報告されています。
脳画像の分析でも、自己コントロールや感情調整などに関係すると考えられる複数のネットワークとの関連が調べられています。
「幼少期のトラウマが先延ばしを起こす」と証明された?
ここは注意が必要です。
先ほどの研究では、
幼少期のトラウマと先延ばしとの関連
が示されています。
しかし、
幼少期のトラウマが直接先延ばしを引き起こすことが証明された
とまでは言えません。
研究では質問票によって幼少期の経験や先延ばし傾向などを測定し、それらの関連や媒介関係を分析しています。
そのため、
先延ばしをする人の過去を調べれば必ずトラウマが見つかる
という意味ではありません。
研究で確認された関連と、
個人の先延ばしの原因を特定すること
は分けて考える必要があります。
子供時代の心理的な虐待と先延ばし
2022年には、大学生682人を対象に、
childhood psychological maltreatment
と先延ばしとの関係を調べた研究も発表されています。
日本語では、
幼少期の心理的虐待
などと訳せます。
この研究では、
幼少期の心理的虐待が多かった人ほど、
先延ばし傾向が高い
という関連が確認されました。
さらに、
時間管理に関する傾向
が両者の関係を媒介していました。
つまり研究では、
幼少期の経験 ↓ 時間管理に関する傾向 ↓ 先延ばし
という関係が検討されています。
ただし、この研究も大学生を対象に質問票で調査したものです。
すべての年代や環境に、そのまま当てはまるとは限りません。
逆境的小児期体験と先延ばしの研究
幼少期の経験については、
Adverse Childhood Experiences(ACEs)
という概念からも研究されています。
日本語では、
逆境的小児期体験
などと呼ばれます。
2026年には、大学生928人を対象に、
逆境的小児期体験と学業上の先延ばし
との関係を調べた研究が発表されています。
この研究でも、
逆境的小児期体験が多いほど、学業上の先延ばしが多い
という関連が確認されました。
さらに、
成人の愛着
や、
レジリエンス
が両者の関係を媒介する可能性が報告されています。
ただし、この研究も大学生を対象とした横断的な調査です。
そのため、
逆境的小児期体験が先延ばしの原因だ
と因果関係まで断定することはできません。
なぜ幼少期の経験と先延ばしが関係する可能性がある?
ここまでの研究を見ると、
単純に、
トラウマ ↓ 先延ばし
という一本の経路だけが考えられているわけではありません。
研究では、その間に、
- 不安
- 自己コントロール
- 時間管理
- 成人の愛着
- レジリエンス
などの要素が関係する可能性が検討されています。
つまり、
過去に何があったか
だけではなく、
その経験と現在の心理・行動的な特徴がどう関係しているのか
が研究されています。
これは、
先延ばしするなら幼少期を掘り下げればよい
という意味ではありません。
むしろ、現在の研究では複数の経路が考えられているということです。
トラウマと「回避」
「先延ばしはトラウマへの反応」と説明される理由の一つとして、
回避
という共通点があります。
トラウマに関連する研究では、
experiential avoidance(体験の回避)
や、
感情調整の困難さについて研究されています。
一方、先延ばし研究でも、
嫌な感情を避けるために作業を後回しにする
という感情調整の側面が研究されています。
例えば、
仕事を始める。
↓
不安になる。
↓
仕事から離れる。
↓
一時的に不安が減る。
という行動です。
そのため、
嫌な感情を避ける
という点では似て見える場合があります。
しかし、
回避がある=トラウマ反応
ではありません。
仕事が単純に退屈。
難しくて不安。
失敗したくない。
疲れている。
といった場合にも、作業を避けることがあります。
トラウマ研究でも感情調整は重要なテーマ
トラウマと感情調整との関係については、多くの研究があります。
2015年のメタ分析では、57研究を対象に、
心的外傷後ストレス症状と感情調整
との関係が検討されました。
その結果、
- 全般的な感情調整の困難
- 反すう
- 思考の抑制
- 体験の回避
などと心的外傷後ストレス症状との関連が報告されています。
一方、先延ばしについても感情調整との関係が研究されています。
このため、
感情調整
はトラウマと先延ばしの両方を考えるときに登場するテーマです。
ただし、
同じ仕組みである
という意味ではありません。
「嫌なことを避ける=トラウマ反応」ではない
例えば、
上司へメールを送らなければならない。
でも、
返事が怖い
と感じて先延ばししているとします。
これは、
不安を避ける行動
と考えることができます。
しかし、そこから、
これは幼少期のトラウマが原因だ
と結論づけることはできません。
ほかにも、
過去に仕事で失敗した。
相手との関係が悪い。
何を書けばいいか分からない。
完璧な文章を作ろうとしている。
単純に面倒。
など、さまざまな可能性があります。
まずは、
今、何を避けているのか
を見るほうが具体的です。
不安や恐怖と先延ばし
幼少期のトラウマと先延ばしについての2025年の研究では、
trait anxiety(特性不安)
が両者の関係を媒介する要素の一つとして報告されています。
先延ばしするときにも、
「失敗したらどうしよう」
「怒られたらどうしよう」
「自分にはできないかもしれない」
という不安がある場合があります。
その場合、
先延ばしを直接なくそうとする
より、
何が怖くて始められないのか
を確認することが役立つ場合があります。
不安や恐怖との関係については、不安や恐怖で先延ばししてしまう?怖くて始められないときの対策でも詳しく紹介しています。
自己コントロールとの関係
2025年の研究では、
自己コントロール
も幼少期のトラウマと先延ばしとの関係を媒介する要素として報告されています。
ただし、
トラウマによって自己コントロール能力が壊れた
と単純に考える必要はありません。
自己コントロールは先延ばし研究全体でも重要なテーマです。
例えば、
仕事をしようと思っている。
↓
スマホが気になる。
↓
スマホを見る。
というように、
目標と別の行動が競合する状況
があります。
そのため、過去の原因を探すだけでなく、
現在の環境を変える
ことも対策になります。
スマホを離す。
通知を減らす。
作業時間を短くする。
最初の行動を決める。
などです。
先延ばしする人は幼少期に問題があった?
これは、
そのようには判断できません。
研究で、
集団として関連が見つかること
と、
一人の人の原因を特定すること
は違います。
例えば研究で、
幼少期のトラウマが多い人ほど平均的に先延ばし傾向が高かったとしても、
先延ばしする人全員に幼少期のトラウマがあるわけではありません。
逆も同じです。
幼少期にトラウマを経験した人が、必ず先延ばしするわけでもありません。
そのため、
自分は先延ばしする ↓ きっと幼少期に原因がある
と過去から理由を探し始める必要はありません。
先延ばしの原因はほかにも研究されている
先延ばしについては、
幼少期の経験以外にも、
- 作業への嫌悪感
- 自己効力感
- 衝動性
- 自己コントロール
- 感情調整
- 結果が得られるまでの時間
などとの関係が研究されています。
そのため、
トラウマ
だけを先延ばしの原因として考えると、ほかの重要な要素を見落とす可能性があります。
先延ばしの原因全体については、なぜ先延ばししてしまう?心理学から考える原因とメカニズムで紹介しています。
研究そのものを確認したい場合は、先延ばしの研究・論文まとめも参考にしてください。
過去より先に「今回の先延ばし」を見る
先延ばししていることがあるなら、
まず、
今回なぜ始められないのか
を確認してみましょう。
例えば、
| 確認すること | 例 |
|---|---|
| 作業をどう感じる? | 面倒、退屈、難しい |
| 不安はある? | 失敗、評価、怒られること |
| 何から始めるか分かる? | 最初の行動が曖昧 |
| 別のことへ逃げている? | スマホ、動画、ゲーム |
| 今の状態は? | 疲れている、眠い |
| 作業が大きすぎない? | 完成まで考えている |
過去の原因を特定できなくても、
今の行動を変えること
はできます。
不安なら「何が怖いか」を具体的にする
例えば、
資料を作るのが怖い
なら、もう少し具体的にします。
内容が間違っているのが怖い。
上司から指摘されるのが怖い。
何を書けばいいか分からない。
時間内に終わらないのが怖い。
同じ「怖い」でも、対策は変わります。
内容が不安なら、
必要な情報を一つ確認する。
指摘が怖いなら、
まず下書きを作る。
作業量が不安なら、
最初の10分ですることを決める。
というように、
今扱える問題
へ変えてみましょう。
過去の経験が気になる場合
過去の経験を思い出したり、先延ばしの原因を自分で探したりすることで、強い苦痛が生じる場合もあります。
そのようなときに、
先延ばしを直すために過去を無理に掘り下げる
必要はありません。
この記事で紹介した研究も、
自分にトラウマがあるかを判定するためのものではありません。
日常生活に大きな支障がある場合や、過去の経験について強い苦痛が続いている場合には、自分だけで原因を決めつけず、医療機関や心理職などの専門家へ相談する選択肢もあります。
Pomolikaで「今できること」まで小さくする
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
先延ばしの背景に何があるとしても、
今やろうとしている作業が大きすぎる
と始めにくくなることがあります。
そこで、
先延ばししている作業を一つ選ぶ
↓
最初にすることを一つ決める
↓
Pomolikaを10分に設定する
↓
その一つだけ試す
という方法があります。
例えば、
資料を完成させる
ではなく、
10分で見出しを作る。
試験勉強をする
ではなく、
10分で問題を3問解く。
とします。
タイマーを使えば、トラウマや不安そのものが解決するという意味ではありません。
Pomolikaでできるのは、
今の作業を始めやすい大きさへ変えること
です。
まとめ
幼少期のトラウマや逆境体験と先延ばしとの関係を調べた研究はあります。
2025年の研究では、
幼少期のトラウマと先延ばし傾向との関連
が確認され、その関係を、
不安
と、
自己コントロール
が媒介するという結果が報告されました。
ほかにも、
幼少期の心理的虐待。
逆境的小児期体験。
時間管理。
成人の愛着。
レジリエンス。
などと先延ばしとの関係が研究されています。
一方で、
先延ばしはトラウマへの反応である
先延ばしする人には幼少期のトラウマがある
と一般化することはできません。
先延ばしには、トラウマ以外にもさまざまな要素が関係する可能性があります。
自分が先延ばししているなら、
過去に何があったのか
だけではなく、
今回は何が始める邪魔になっているのか
を確認してみましょう。
不安なのか。
作業が大きいのか。
何から始めるか分からないのか。
スマホへ逃げているのか。
疲れているのか。
原因を一つに決めつけず、
今変えられるところから考える
ことが、先延ばしへの現実的な一歩になります。