「やらないといけないと分かっているのに、なぜ先延ばししてしまうのだろう」。
「先延ばし癖は性格の問題?」
仕事や勉強を後回しにすると、
自分の意志が弱いから
怠けているから
と考えてしまうことがあります。
しかし、心理学では先延ばしについてさまざまな研究が行われています。
代表的な研究では、
- 作業を不快に感じること
- 結果が得られるまで時間があること
- 自分ならできるという感覚
- 衝動性
- 自己コントロール
- 気が散りやすいこと
など、複数の要因と先延ばしとの関係が報告されています。
また近年の先延ばし研究では、
嫌な気持ちから一時的に逃れるために先延ばしする
という感情調整の側面も重視されています。
つまり、
先延ばしには一つの原因があるわけではありません。
この記事では、なぜ先延ばししてしまうのか、心理学の研究をもとに原因とメカニズムを整理します。
そもそも先延ばしとは?
すべての「あとでやる」が先延ばしとは限りません。
例えば、
「今日は重要な仕事があるから、この作業は明日にする」
と意図的に優先順位を変えることがあります。
これは単なる延期であり、必ずしも先延ばしではありません。
先延ばし研究では一般に、
やろうと思っていることを、悪い結果につながる可能性を認識しながら、不必要に遅らせること
として捉えられています。
つまり、
意図的に予定を変更すること
と、
やったほうがいいと分かっているのに避け続けること
は分けて考えられます。
American Psychological Association(APA)の解説でも、先延ばしは自発的かつ不必要な遅延として説明されています。
なぜ先延ばししてしまうのか
先延ばしの原因を、
やる気がないから
だけで説明することはできません。
Piers Steelが2007年に発表した先延ばし研究のメタ分析では、691の相関関係を分析しています。
その結果、先延ばしと強く安定した関係が見られた要因として、
作業の不快さ
結果までの時間
自己効力感
衝動性
などが挙げられています。
一方で、神経症傾向や反抗性、刺激を求める傾向との関係は弱いものでした。
つまり、
特定の性格だから先延ばしする
と単純に説明するより、作業そのものや、そのときの感情、時間的な条件なども含めて考える必要があります。
原因1:その作業を不快に感じている
先延ばしと特に関係する要因の一つが、
task aversiveness
です。
日本語では、
作業への嫌悪感
作業を不快に感じること
などと考えると分かりやすいでしょう。
例えば、
- 退屈
- 難しそう
- めんどくさい
- ストレスを感じる
- 不安になる
- 失敗したくない
と感じる作業です。
「資料を作る」という行動そのものを避けているように見えても、
実際には、
資料作成によって感じる嫌な気持ち
を避けている場合があります。
「めんどくさい」という感覚が強い場合は、めんどくさくて先延ばししてしまう?やりたくない作業を始める方法も参考にしてください。
原因2:嫌な気持ちから一時的に逃れたい
近年の先延ばし研究で重要な考え方の一つが、
感情調整
です。
Fuschia Siroisらの研究では、先延ばしを単なる時間管理の問題ではなく、
短期的に気分を良くするための行動
として捉える考え方があります。
例えば、資料を作ろうとすると不安になる。
そこでスマホを見る。
すると、その瞬間だけ資料について考えなくてよくなります。
つまり、
資料を避ける ↓ 嫌な気持ちが少し減る ↓ 一時的に楽になる
という流れです。
APAによるSiroisの解説でも、先延ばしによって嫌な作業から離れることで、短期的には気分が改善し、それが先延ばしを繰り返す一因になり得ると説明されています。
APA「Why we procrastinate and what to do about it」
原因3:すぐ楽になれる行動を選んでしまう
先延ばしするとき、
将来の自分には不利だと分かっている
ことがあります。
明日提出する資料を今作ったほうがいい。
試験勉強も今日から始めたほうがいい。
それでも、
スマホを見る。
動画を見る。
ゲームをする。
別の簡単な仕事をする。
といった行動を選ぶことがあります。
嫌な作業を避ければ、
今すぐ少し楽になれる
からです。
一方、勉強や仕事による利益は、
将来得られるもの
であることが少なくありません。
この「今」と「将来」の違いも、先延ばしを考えるうえで重要です。
時間によって行動の価値が変わる仕組みについては、行動経済学や時間的動機づけ理論からも研究されています。
このテーマは別記事で詳しく扱います。
原因4:作業が大きすぎる・曖昧すぎる
「企画書を作る」。
「資格の勉強をする」。
「部屋を片付ける」。
こうしたタスクは、何をすればいいか分かっているようで、
最初の行動が分かりにくい
ことがあります。
企画書なら、
何について調べる?
どんな構成にする?
どこまで作る?
と考える必要があります。
作業が大きく複雑になるほど、
大変そう
時間がかかりそう
という感覚も強くなります。
そこで、
企画書を作る
ではなく、
見出しを3つ書く
まで小さくします。
勉強なら、
資格の勉強をする
ではなく、
問題を5問解く
とします。
先延ばしの原因そのものをなくせなくても、
始めるときに感じる負担を小さくする
ことはできます。
原因5:自分にできると思えない
Steelのメタ分析では、
self-efficacy(自己効力感)
も先延ばしと関係する重要な要因として挙げられています。
自己効力感とは簡単にいえば、
自分ならその行動を実行できそうだという感覚
です。
例えば、
「この資料なら作れそう」
と思っている場合と、
「自分には無理そう」
と思っている場合では、始めるときの心理的な負担も違います。
難しい仕事を前にして、
できる気がしない
と感じているなら、
いきなり完成を目指すのではなく、
自分でもできそうなところまで小さくする
方法があります。
資料を完成させるのは難しくても、
資料を開く。
必要な情報を一つ調べる。
見出しを一つ書く。
そこまでならできるかもしれません。
原因6:失敗や評価が不安
作業そのものより、
作業した結果が怖い
場合もあります。
例えば、
「間違っていたらどうしよう」
「評価されなかったらどうしよう」
「自分の実力が分かってしまうのが怖い」
といった不安です。
そうすると、
まだやっていない状態
を維持することで、結果を見ることも先送りできます。
特に、
完璧にやらなければならない
という考えが強い場合、最初から高い完成度を求めて始めにくくなることがあります。
完璧主義との関係については、完璧主義だと先延ばししやすい?始められないときの対策で詳しく紹介しています。
不安や恐怖が強い場合は、不安や恐怖で先延ばししてしまう?怖くて始められないときの対策も参考にしてください。
原因7:目の前の誘惑へ反応しやすい
仕事を始めようとした瞬間、
スマホが目に入る。
通知が来る。
面白そうな動画を見つける。
別のことを思いつく。
こうした誘惑があると、予定していた作業から離れることがあります。
Steelのメタ分析では、
衝動性
や、
気が散りやすいこと
も先延ばしとの関係が示されています。
そのため、
誘惑があっても我慢する
ことだけを対策にする必要はありません。
例えば、
- スマホを机から離す
- 不要な通知を減らす
- 作業に必要なものだけ開く
- 集中する時間を短く区切る
など、誘惑へ反応する機会そのものを減らす方法もあります。
スマホとの関係については、スマホやゲームで先延ばししてしまうときの対策も参考にしてください。
原因8:疲れていて始める負担が大きい
同じ仕事でも、
朝は始められたのに、疲れた夕方には始められない。
ということがあります。
先延ばしは、
いつでも同じ原因で起きる
とは限りません。
疲れている。
眠い。
ストレスがたまっている。
ほかのことで頭がいっぱいになっている。
そうした状態では、嫌な作業へ向き合う負担も大きく感じる場合があります。
この場合、
先延ばししないように無理やり続ける
ことだけが対策ではありません。
休息が必要なのか。
作業を小さくすればできそうなのか。
一度分けて考えてみましょう。
疲れや無気力との関係については、疲れや無気力で先延ばししてしまう?やる気が出ないときの考え方でも紹介しています。
先延ばしは本能なの?
「先延ばしは人間の本能なの?」
と考えることもあります。
目の前の不快感を避けたり、すぐ得られるものに魅力を感じたりする仕組みは、先延ばしを理解するうえで重要です。
ただし、
先延ばしは人間の本能だから仕方がない
と単純に説明するのは適切ではありません。
研究では、
- 作業の特徴
- 感情
- 自己効力感
- 衝動性
- 自己コントロール
- 報酬までの時間
など、複数の要因から先延ばしが研究されています。
「本能」という一つの原因にまとめるより、
自分の場合は何が先延ばしを起こしているのか
を具体的に考えるほうが、対策につなげやすくなります。
先延ばししやすい性格はある?
先延ばしには個人差があります。
しかし、
先延ばしする性格の人だから仕方がない
と決めつける必要はありません。
Steelのメタ分析でも、すべての性格特性が同じように先延ばしと関係しているわけではありません。
例えば、神経症傾向や刺激を求める傾向との関係は弱い一方で、衝動性や誠実性、その下位要素である自己コントロールや気の散りやすさなどには、より一貫した関係が確認されています。
つまり、
「性格が悪い」「怠け者だから」
という話ではありません。
先延ばししやすい性格については、先延ばししやすい性格とは?特徴だけで決めつけず原因を考えるでも詳しく紹介しています。
先延ばしの心理的なメカニズム
ここまでを、簡単な流れにしてみます。
例えば、仕事の資料を作らなければならないとします。
資料について考える
↓
難しそう・めんどくさい・不安と感じる
↓
嫌な気持ちから離れたくなる
↓
スマホを見る
↓
一時的に楽になる
↓
資料は進んでいない
↓
締め切りが近づいてさらに不安になる
という流れです。
ここで重要なのは、
先延ばしによって短期的には楽になることがある
という点です。
短期的には楽になるため、同じ行動を繰り返しやすくなります。
しかし、作業そのものが消えるわけではありません。
結果として、
あとでさらに大きな負担として戻ってくる
ことがあります。
原因は一つとは限らない
自分の先延ばしを振り返るとき、
原因を一つに決める必要はありません。
例えば、
資料作成が難しい。
↓
失敗するのが不安。
↓
スマホが目に入る。
↓
動画を見る。
というように、複数の要因が重なることがあります。
また、同じ人でも、
仕事では不安から先延ばしする。
勉強ではスマホが原因になる。
家事では単純にめんどくさい。
ということもあります。
そのため、
私は先延ばしする人間だ
と考えるより、
今回はなぜ先延ばししている?
と考えてみましょう。
自分が先延ばしする原因を確認する
先延ばししていることを一つ選んで、次のように確認してみましょう。
| 確認すること | 例 |
|---|---|
| 作業をどう感じる? | めんどくさい、難しい、退屈 |
| 何が不安? | 失敗、評価、分からないこと |
| 作業は具体的? | 何から始めるか分からない |
| できそうだと思える? | 難しすぎると感じる |
| 何へ逃げている? | スマホ、動画、ゲーム |
| 今の状態は? | 疲れている、眠い |
| 締め切りは? | まだ先なので急いでいない |
全部当てはまる必要はありません。
一つ見つかれば、
その原因に合わせた対策
を考えられます。
原因が違えば対策も変わる
例えば、
作業が大きすぎる → 最初の作業を小さくする
何から始めるか分からない → 最初の一つを決める
失敗が不安 → 完成ではなく下書きから始める
スマホが気になる → 作業場所から離す
25分が長く感じる → 10分にする
疲れている → 休息が必要か確認する
というように変わります。
先延ばし対策を探すとき、
最強の方法を一つ探す
より、
今の先延ばしの原因に合う方法を選ぶ
と考えてみましょう。
心理を理解するだけで終わらせない
先延ばしの原因を知ると、
「なるほど、自分はこれかもしれない」
と思うことがあります。
しかし、
原因を理解すること
と、
実際に作業を始めること
は別です。
原因が分かったら、次に、
今できることは何か
を一つ決めます。
例えば、
「作業が大きすぎるから先延ばししている」
と分かったなら、
作業を小さくする
ところまで進めます。
資料作成なら、
資料を完成させる
ではなく、
10分で見出しを3つ作る
とします。
心理学について調べ続けること自体が、新しい先延ばしにならないようにしましょう。
Pomolikaで原因に合わせて最初の一歩を作る
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
先延ばししていることがあったら、まず、
なぜ始めにくいのか
を確認してみましょう。
そのうえで、
最初にすることを一つ決める
↓
Pomolikaを10分に設定する
↓
その作業だけを10分試す
という方法があります。
25分にこだわる必要はありません。
例えば、
資料作成が大きすぎるなら、
10分で構成だけ考える
とします。
勉強がめんどくさいなら、
10分だけ問題を解く
とします。
先延ばしの原因をすべて解決してから始める必要はありません。
今の状態でも始められる大きさまで作業を小さくする
ために、短いタイマーを使ってみましょう。
まとめ
なぜ先延ばししてしまうのか。
心理学の研究を見ると、
一つの原因だけで説明できるものではありません。
先延ばしには、
- 作業を不快に感じる
- 嫌な気持ちから一時的に逃れたい
- すぐ楽になれる行動を選ぶ
- 作業が大きい・曖昧
- 自分にできると思えない
- 失敗や評価が不安
- 目の前の誘惑へ反応する
- 疲れている
など、さまざまな要因が関係する可能性があります。
だからこそ、
「自分は意志が弱いから」
だけで終わらせないことが大切です。
先延ばししていることを一つ選んで、
今回は何が始める邪魔になっている?
と考えてみましょう。
原因が具体的になれば、
作業を小さくする。
スマホを離す。
不安の原因を確認する。
短い時間から始める。
休息を取る。
など、試す対策も具体的になります。
先延ばしする自分自身を分析するのではなく、
今先延ばししている一つの作業
から原因を探してみましょう。