「先延ばしを説明する理論や法則はある?」
「パーキンソンの法則と先延ばしにはどんな関係がある?」
先延ばしについて調べると、
現在バイアス
時間的動機づけ理論
パーキンソンの法則
など、さまざまな言葉が出てきます。
ただし、これらはすべて同じ種類の「先延ばしの法則」ではありません。
心理学の研究から提案された理論もあれば、経済学から意思決定を説明する考え方もあります。
また、パーキンソンの法則は仕事と時間についての有名な法則ですが、
もともと先延ばしを説明する心理学理論として提案されたものではありません。
この記事では、先延ばしを理解するときに登場する代表的な理論や法則を整理します。
先延ばしを説明する一つの法則があるわけではない
最初に押さえておきたいのは、
「先延ばしの法則」という一つの決まった法則があるわけではない
ということです。
先延ばしは、
- 作業をどれくらい魅力的に感じるか
- 自分にできると思えるか
- 結果が得られるまでどれくらい時間があるか
- 衝動性
- 自己コントロール
- 作業によって生じる感情
など、さまざまな角度から研究されています。
そのため、一つの理論ですべての先延ばしを説明しようとするより、
複数の理論から自分の先延ばしを見る
ほうが理解しやすいでしょう。
時間的動機づけ理論とは?
先延ばし研究で代表的な理論の一つが、
Temporal Motivation Theory(時間的動機づけ理論)
です。
Piers Steelは2007年、先延ばしに関する過去の研究を統合したメタ分析と理論的レビューを発表しました。
この研究では691の相関関係が分析され、
- 作業への嫌悪感
- 結果までの時間
- 自己効力感
- 衝動性
- 自己コントロール
- 気の散りやすさ
- 組織化
- 達成動機
などと先延ばしとの関係が検討されています。
その結果は、時間的動機づけ理論と整合するものでした。
「期待・価値・時間・衝動性」から考える
時間的動機づけ理論では、動機づけを考えるとき、
期待
価値
遅延
衝動性
などが重要になります。
先延ばしへ当てはめると分かりやすくなります。
例えば、資格試験の勉強をするとします。
期待
「勉強しても自分には合格できない」
と思っていれば、始める動機は弱くなりやすくなります。
逆に、
「この問題なら解けそう」
と思えれば取り組みやすくなるかもしれません。
価値
その作業にどれくらい価値を感じているかです。
興味がない。
退屈。
やりたくない。
という作業は、価値を感じにくくなります。
遅延
結果が得られるまでの時間です。
今日勉強しても、試験は半年後。
今日資料を作っても、締め切りは1か月後。
このように結果が遠い場合があります。
衝動性
長期的な目標より、目の前の誘惑へ反応しやすいかという個人差も関係します。
例えば、
勉強を始めようとした瞬間にスマホを見る。
資料を作ろうとしたら動画を見る。
という状況です。
つまり、
できそうにない
価値を感じない
結果が遠い
目の前の誘惑が強い
といった条件が重なるほど、先延ばしを理解しやすくなります。
時間的動機づけ理論は実際の行動でも研究されている
時間的動機づけ理論は、理論だけで終わっているわけではありません。
2018年には、実際の作業ペースを追跡した縦断研究が発表されています。
この研究では、学生が学期中に課題へどのように取り組むかなどが調べられました。
結果として、
先延ばし傾向が高い人ほど、締め切りへ近づくにつれて急激に作業量が増える
というパターンが確認されています。
研究では、作業ペースが双曲型の曲線を示し、その曲線の急さを自己申告の先延ばし傾向が予測しました。
また、先延ばしは、
「やろうと思っていない」ことより、「やろうと思っているのに実行しない」こと
との関係が確認されています。
締め切り直前になると急に動けるのはなぜ?
例えば、
1か月後までに資料を作る
とします。
締め切りが遠い時点では、
「今日はやらなくても大丈夫」
と思います。
ところが締め切りが明日になると、
今やらないと間に合わない
という状況になります。
結果が遠いときには弱かった動機が、締め切りが近づくにつれて強くなります。
時間的動機づけ理論は、このような、
時間によって動機づけが変化すること
を理解するためにも使われています。
だからといって、
締め切り直前まで待つほうが効率的
という意味ではありません。
実際には、時間不足やストレスなど別の問題が起こる可能性があります。
現在バイアスから先延ばしを考える
先延ばしは行動経済学からも説明されています。
そこで登場するのが、
現在バイアス
です。
簡単にいえば、
将来よりも「今」の利益や負担を強く評価しやすい傾向
です。
例えば、
今日30分勉強する。
↓
メリットは数か月後の試験。
動画を見る。
↓
楽しさは今すぐ得られる。
という違いがあります。
将来の自分について考えているときは、
今日から勉強したほうがいい
と思っていても、
実際にその日になると、
今日は動画を見たい
と判断が変わることがあります。
現在バイアスについては、なぜ先延ばしする?行動経済学の「現在バイアス」から考えるで詳しく紹介しています。
時間割引と先延ばし
現在と将来の選択に関連する考え方として、
時間割引
もあります。
将来得られる報酬は、時間が遠くなるほど現在の自分にとっての価値が小さく感じられることがあります。
2024年には、実際の長期課題に取り組む過程を測定し、
将来の報酬を強く割り引く人ほど、実際の先延ばしが多かった
という関連を報告した研究もあります。
ただし、時間割引だけですべての先延ばしを説明できるわけではありません。
先延ばしには感情や作業の特徴なども関係します。
感情調整としての先延ばし
時間とは別の方向から先延ばしを説明するのが、
感情調整
という考え方です。
例えば、
資料を作ろうとする。
↓
失敗するのが不安になる。
↓
スマホを見る。
↓
一時的に不安が減る。
という行動です。
この場合、
時間の使い方が下手だから
だけで先延ばししているわけではありません。
嫌な感情から一時的に離れるために、作業を避けています。
先延ばし研究者Fuschia Siroisは、このような先延ばしを、
短期的に気分を改善する行動
という観点から説明しています。
自己調整の失敗としての先延ばし
先延ばし研究では、
self-regulation failure(自己調整の失敗)
という考え方もよく登場します。
自分には、
資料を完成させたい
という長期的な目標があります。
しかし目の前には、
スマホ。
動画。
ゲーム。
別の簡単な仕事。
などがあります。
長期的な目標に合わせて行動しようとしても、別の行動を選んでしまうことがあります。
Steelの2007年の論文でも、先延ばしは代表的な自己調整の失敗として扱われています。
ただし、
自己調整できない人だから先延ばしする
と性格の問題だけにする必要はありません。
作業への嫌悪感や時間、環境なども関係します。
パーキンソンの法則とは?
先延ばしについて調べると、
パーキンソンの法則
が紹介されることがあります。
パーキンソンの法則は、英国の歴史学者C. Northcote Parkinsonが1955年に発表した文章から広まったものです。
その代表的な考え方は、
仕事は、完成のために与えられた時間を満たすように膨張する
というものです。
例えば、
同じ資料作成でも、
今日中に作る
と決めれば今日中に進めようとする。
一方、
1週間後まで
となれば、1週間を使ってしまう。
という現象を説明するときによく使われます。
パーキンソンの法則=先延ばしの法則ではない
ここは区別しておきましょう。
パーキンソンの法則は、
心理学の先延ばし研究から生まれた理論ではありません。
また、
人間は必ず締め切りまで先延ばしする
ことを科学的な法則として示したものでもありません。
もともとは官僚組織や仕事について書かれた風刺的な文章から広まった表現です。
そのため、
パーキンソンの法則によって先延ばしが科学的に証明されている
と考えるのは適切ではありません。
一方で、
使える時間が長いと、仕事に使う時間も長くなりやすい
という考え方は、時間の使い方を見直すヒントとして利用できます。
パーキンソンの法則と先延ばしは似て見える
例えば、
金曜日までに資料を作る。
という仕事があります。
月曜日。
「まだ4日ある」。
火曜日。
「まだ3日ある」。
水曜日。
「そろそろやらないと」。
木曜日。
「明日までだ」。
金曜日。
「今日やるしかない」。
となれば、
締め切りまで時間を使っている
という意味ではパーキンソンの法則と似て見えます。
しかし、先延ばし研究から考えると、
なぜ始めなかったのか。
作業が嫌だったのか。
結果が遠かったのか。
別の誘惑があったのか。
不安だったのか。
など、さらに細かく原因を考えられます。
理論によって先延ばしの見え方が変わる
同じ、
資料を締め切り直前まで先延ばしした
という行動でも、理論によって見方が変わります。
| 考え方 | 先延ばしの見方 |
|---|---|
| 時間的動機づけ理論 | 期待・価値・遅延・衝動性などから考える |
| 現在バイアス | 将来より現在の利益や負担を重く見る |
| 時間割引 | 遠い将来の価値が小さく感じられる |
| 感情調整 | 作業による嫌な感情から一時的に逃れる |
| 自己調整 | 長期目標に沿った行動を維持できない |
| パーキンソンの法則 | 与えられた時間いっぱいまで仕事が膨らむ |
どれか一つだけが、
正しい先延ばしの説明
というわけではありません。
自分の先延ばしを見るための異なる視点として使えます。
理論から先延ばし対策を考える
理論を知ったら、実際の行動へ変えてみましょう。
期待が低いなら
自分にはできない
と思っている場合は、作業を小さくします。
「資料を完成させる」
ではなく、
見出しを3つ作る
とします。
価値が低いなら
退屈な作業なら、
なぜこれをする必要があるのか
を確認します。
また、長時間続けず、短い時間で区切る方法もあります。
結果が遠いなら
1か月後の締め切りだけを見るのではなく、
今日すること
まで決めます。
誘惑が強いなら
スマホを離す。
不要な通知を止める。
必要な画面だけ開く。
など、環境を変えます。
嫌な感情があるなら
「やりたくない」で終わらせず、
何が嫌なのか
を具体的にします。
難しい。
失敗が怖い。
退屈。
何をすればいいか分からない。
理由が違えば対策も変わります。
「使える時間」を先に短くする
パーキンソンの法則を実用的なヒントとして使うなら、
作業に使える時間を最初から短くする
という方法があります。
例えば、
「今日中にブログを書く」
ではなく、
10分で構成を考える
とします。
資料なら、
15分で必要な情報を集める
とします。
重要なのは、
短時間で全部終わらせること
ではありません。
いつまでも使える状態にせず、
今はここまで
と時間を区切ることです。
締め切りだけではなく開始時間も決める
先延ばしするときは、
いつまでに終えるか
だけ決めている場合があります。
例えば、
金曜日までに資料を作る
という予定です。
これでは、
月曜日でもいい。
火曜日でもいい。
水曜日でもいい。
となります。
そこで、
月曜日の20時から10分だけ構成を考える
まで決めます。
終了期限だけではなく、
いつ始めるか
も具体的にするわけです。
締め切りが遠いほど、
今日の行動
まで小さくしてみましょう。
Pomolikaで使える時間を区切る
Pomolikaはブラウザで使えるポモドーロタイマーです。
時間的動機づけ理論やパーキンソンの法則を知っても、
実際の作業を始めなければ状況は変わりません。
そこで、
先延ばししている作業を一つ選ぶ
↓
最初にすることを決める
↓
Pomolikaを10分に設定する
↓
10分だけ取り組む
という方法があります。
例えば、
今日中に資料を作る
ではなく、
10分で見出しを作る
とします。
資格勉強なら、
試験まで勉強を頑張る
ではなく、
今10分だけ問題を解く
とします。
タイマーを使えば先延ばしの心理そのものがなくなる、という意味ではありません。
Pomolikaでできるのは、
曖昧だった作業時間を具体的に区切ること
です。
先延ばし研究をさらに知りたい場合
この記事で紹介した理論は、先延ばし研究の一部です。
研究そのものを確認したい場合は、先延ばしの研究・論文まとめで、メタ分析や縦断研究、介入研究などを紹介しています。
先延ばしの心理的な原因については、なぜ先延ばししてしまう?心理学から考える原因とメカニズムも参考にしてください。
脳科学から知りたい場合は、先延ばしするとき脳では何が起きる?で紹介しています。
まとめ
先延ばしを理解するためには、さまざまな理論や考え方があります。
代表的なものとして、
- 時間的動機づけ理論
- 現在バイアス
- 時間割引
- 感情調整
- 自己調整
などがあります。
時間的動機づけ理論では、
期待・価値・遅延・衝動性
などから動機づけを考えます。
一方、パーキンソンの法則は、
仕事は完成のために与えられた時間を満たすように膨張する
という考え方として知られています。
ただし、
パーキンソンの法則は心理学で実証された「先延ばしの法則」ではありません。
先延ばしを直接説明する理論と、仕事の時間についての有名な法則は分けて考えましょう。
理論を知る目的は、
自分が先延ばしする人間だと分類すること
ではありません。
期待が低いなら作業を小さくする。
結果が遠いなら今日することを決める。
誘惑が強いなら環境を変える。
嫌な感情があるなら、その内容を具体的にする。
使える時間が長すぎるなら、時間を区切る。
理論を、
今の先延ばしに対して何を変えるか考えるための道具
として使ってみましょう。